NPO法人いきいき住宅リフォーム支援機構・愛知平成17年度総会記念講演会

地域でいきいきと暮らし続けるには

講師
日本向老学学会事務局長、NPO法人ウィン女性企画
高橋 ますみ氏

NPOと企業の違いって??
 NPOと企業はどう違うかという質問をよく受けます。企業は、利潤追求を第一の目的としますが、社会的な価値がなければ発展しません。そして社会の要求と一致すれば利潤追求をしながら、社会の役に立つことができます。NPOとの相違は、「社会的な使命感」を大切にするということが第一の目的です。そして残った利益は次の活動費にまわすという仕組みになっています。私自身もよくわからない点があったので、同志社大学でNPOについての講座があると聞き、大学院の受験をしたのが60歳の時です。1年ほど準備をして入学させていただきました。入学したら、指導教授は私より数年若くて、同級生の方は私の息子より10歳ぐらい若い方たちばかりでした。そういう環境の中で学ばせていただいたのは、本当によかったと思います。今は、そういう意味ではエイジレス、つまり年齢のない時代に入ってきたといえるかもしれません。
 みなさんのいろんな能力、技術、アイデアを使命感に燃えてNPO法人の中で活用するためには、NPOとはとても良いものができたなと思っています。

NPO法人ウィン女性企画って何??

 NPO法人ウィン女性企画を1974年に立ち上げました。ウィンというのはWomen’s International Network of Nagoya、WINNでウィンと言います。どうして立ち上げたかといいますと、男性も、定年後に現役時代の知識や技術、ネットワークをうまく活用できるシステムがなかったからです。また、女性の場合も、子育てをしながら余った時間で、若い頃に身につけた能力を活用したいのに、そういうシステムがまだ社会の中になかったからです。会員の皆さんに都合の良い時間と自分が持っている技術や知識を登録してもらい、会員同士で活用しあっています。社会のしくみの中で、うまく吸収できない、活用できない色々な能力を私たちの手で開発して活動していこうと思っています。

向老学の誕生秘話
 私自身、現在93歳の実母の介護をしています。そして以前は夫の母の介護を15年ほどして見送りました。それは、ちょうど子育てと重なり、大変だったのですが、よかったこともありました。それは、私もいずれそうなっていく、つまり老いていくという学習ができたことです。老人社会学のように高齢期はどんな状態かを分析する学問や研究はありますが、どう老いていったらいいのか、つまり老いに向かうプロセスについての学問や研究がないことに気づきました。そしてそのことを勉強したいと思い、老いに向かってどう生きるかという意味で「向老学」と自分で命名しました。


どうして日本は世界一の長寿国になったの??
 今、日本は超高齢社会に突入しつつあります。日本人の平均寿命は男性79歳、女性は86歳で、ありがたいことに世界でトップです。どうして、こんなに平均寿命が伸びたのでしょうか。1つ目は平和が続いたということ、2つ目に食料が豊かになったということ、そして3つ目に医学、科学技術が発展したということです。私たちは、長い日本人の歴史の中で一番良い時代に老いに向かって生きていけるということに感謝したいと思います。長生きをマイナスに考えないで、この年齢まで生きられてよかったと思うべきだと思います。
老いにもメリットがある!!
 寿命が伸びると体に不自由が出てくるのは当然のことで、例えば半身が不自由になるとか、耳が遠くなったという時に、体が不自由な方たちが開発しておいて下さった道具を活用することができます。そういう時に、体が不自由な方たちが存在されているということをありがたいと受け止めることができます。
また、「物忘れ」もいつまでも恨みに思っていることを忘れられるならば、それも才能だと受け止めることもできます。
 高齢になると時代の変化にのれないということもでてきます。今ですとコンピュータの扱いが苦手だということがあるかもしれません。しかし、それを克服するという楽しみもあります。
「老いの客観視」つまり、老いていく自分を自分でみつめることが必要です。また、高齢社会の一員であるということに感謝と誇りを持つべきだと思います。。

男性は1人では生きていけない!?
 保健師の国民保険中央会の調査によると、「配偶者が亡くなって生きがいを失い、健康を損なった」割合が男性の37.3%に対し、女性は1%です。この違いは大きいと思います。また、「配偶者が亡くなった後もいきいきと生活している」割合が男性の2.4%に対し、女性は63.2%です。女性は1人になってもいきいきと生活できるのに対し、男性が1人になった時はそうではありません。とくに家事の面で不自由することがでてきます。できることなら、男性の方も家事ができるようになっておいたほうが将来のためになると思います。特に、料理はできるようになっておいたほうがいいと思います。料理は、調理だけでなく買い物、片付け、ごみの捨て方など多くの作業があり、簡単ではありません。このように、男性の生き方も、長寿社会では重要な課題の1つです。


シルバーハラスメントってなくならないの??
 今、問題になっているのがシルバーハラスメント、つまり高齢者虐待です。介護する人がされる人を虐待することですが、だんだん増えてきています。しかし、やめさせる機関がまだありません。1番最初に役所にシルバーハラスメントの窓口をつくったのは横浜市で、愛知県では大府市がつくり、2番目だそうです。どのようにシルバーハラスメントをやめさせるかということですが、介護する場は密室状態なので、行政が入りにくく、解決は難しいかもしれません。しかしシルバーハラスメントを防ぐ方法はあります。夫婦の場合は、若い時からの信頼関係、つまりお互いに尊重しあうということが大切です。そしてそういった努力をする必要があります。人間的なあたたかい関係をもつことが大事です。


地域の中でいきいきと暮らすために必要なこと  心のバリアフリー

 地域の中でいきいきと暮らすコツの1つに、「オープンハウス」という考え方があります。それは、他人を自分の家の中に入れるという考え方です。しかし、家の中はきれいでなければならない、散らかっていてはいけないという見栄があるとしたら、そういう見栄は捨てましょう。建物のバリアフリーだけでなく、「心のバリアフリー」が大事です。例えば、おせんべいやおまんじゅうがなくても平気で他人を家の中にあげられるような、他人に対しての「心のバリアフリー」をしていかなければなりません。地域の中でいきいきと暮らすためには、近隣地域とのネットワークを大切にしたり、お互いに「1人になることも、病気になることもあるね」と声をかけ合ったりしておいた方がいいと思います。外に対して見栄を張らずに、オープンにすることが1番大事です。散らかっているのもお互いさま、お菓子がないのもお互いさまなのです。お互いに「心のバリア」を取って通じ合うことが大事だと思います。
 いきいきと地域で暮らすために、心のバリアをとり、オープンハウスにして、動けなくなっても近所の人たちが気楽にあがってこられるような雰囲気を今からつくっておくことが大切です。

超高齢社会にむけてリフォームしよう!!

 住宅に関してリフォームという視点で一般市民の立場で申しますと、新しく住宅を建てるというときは、建築関係の方に頼みに行きやすいのですが、お風呂を改造するなどといったリフォームに関することは、頼みに行きにくいと思う時がありますので、このNPO法人いきいき住宅リフォーム支援機構・愛知ができて喜ばしく思っています。これから日本は超高齢社会をむかえます。そういう中では、地域社会で高齢者の安全が保障され、いきいきと暮らすことができる住宅、体が不自由になっても生活できる住宅が必要になります。このNPOが設立されたことで、リフォームのためのいろいろな知恵を専門家がアドバイスすることにより、こういった住宅がますます作られていくことを期待します。